学術情報

ヨーロッパでのマレック病調査 2014年春

Brigitte Othmar, Egon Vielitz
vaxixnova GmbH, Cuxhaven, Germany

 

始めに

ワクチンの応用が開始(1969年)される以前は、マレック病は特に南部ヨーロッパでは最も経済的被害の大きい鶏病として認識されていました。北部ヨーロッパでは神経病変を示すいわゆる‘古典‘型が流行し、一方で、南部ヨーロッパ(特にスペイン)では‘腫瘍‘型が育成期において45~50%まで減耗を発生させる原因になっていました。 ここ10年間、ヨーロッパではHVTとCVI988がコマーシャル採卵鶏用マレック病(MD)予防ワクチンの製造用株として使われています。 野外の感染圧の強い状況では、再接種が鶏群をマレック病から予防するために幅広く行われています。 再接種とはマレック病ワクチンの2回接種を試みることです(Gimeno 等., 2012年)。ワクチン接種手順は各国で異なっています。 本調査は、近年のヨーロッパでのワクチン接種の実施状況を踏まえ、2014年のマレック病の状況をまとめています。

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調査に協力いただいた獣医師

本調査に協力頂いた獣医師はすべてEUの家禽獣医師研究グループ(Poultry Veterinary Study Group in the EU:PVSG-EU)に所属しています。家禽獣医師研究グループとは、すべてのEU加盟国およびスイス、ノルウェーの家禽獣医師で構成されている民間グループです。1965年に研究グループが設立され、80人以上のメンバーがいます。メンバーは臨床獣医師であることが条件で、個人開業もしくは家禽飼育会社に所属しています。 年に1回、何処かヨーロッパの国に集まり、それぞれの鶏病診断や新興感染症への対応の経験を共有しています。 本調査には欧州17か国から28人の獣医師に協力頂きました。

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獣医師への質問

1) 今もなおマレック病(MD)は問題となっていますか?

      問題となっている場合、何%ほど鶏の減耗が発生していますか?

2) どのマレック病ワクチンを使っていますか?

  例えばHVT、 CVI988、2価製剤のいずれでしょうか?

3) ワクチンを再接種していますか?

4) 2回接種がより高い効果を示す根拠はありますか?

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回答

1) 今もなおマレック病(MD)は問題となっていますか?

ドイツ(DE)、スペイン(ES)、フランス(FR)、ノルウェー(NO)、ハンガリー(HU)、とブルガリア(BG)、で散発的に発生し、マルチエイジ飼育やバイオセキュリティーや衛生管理状態が不十分な農場では野外感染が厳しい状態となっています。過去3年間にイギリス(UK)、オランダ(PL)、オーストリア(AT)とイタリア(IT)はマレック病を経験していますが、現在はありません。ワクチンの効果によりマレック病による減耗は比較的小さくなっています(図1参照)。新たなマレック病ワクチンがない中では、マレック病の発生に関しての獣医師の回答は、接種スケジュールという観点において変化しています。再接種は野外感染圧の状況に基づいていまだに一般的に行われています。

図1. 今もなおマレック病(MD)は問題となっていますか?

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2) どのマレック病ワクチンを使っていますか?

ヨーロッパではHVTまたは組み換え型HVT-IBD(r-HVT)株とCVI998株の1価もしくは2価のワクチンを農場で使っています。 すべてのブロイラーがHVT、r-HVTもしくはCVI988の1回接種を行っていますが、ほとんどのヨーロッパの国々では、種鶏とコマーシャル採卵鶏には2価の組み合わせ(例 HVT/CVI998もしくはr-HVT+CVI988)が使われています(表1参照)。

表1. 標準的なMDワクチン接種スケジュール

ワクチン接種
1回目
ワクチン接種
2回目
ワクチン接種
3回目
種類
HVT
(1日齢)
ブロイラー AT、CY、IRE、ES、FIN、IT、UK
r-HVT
(1日齢)
フリーレンジ飼育のブロイラー CY、ES
HVT
(1日齢)
フリーレンジ飼育のブロイラー CH
CVI988
(1日齢)
フリーレンジ飼育のブロイラー AT、 CY、 FIN、FR、 IT、S、DK
HVT/CVI988
(1日齢)
レイヤー、種鶏 AT、 CH、 DE、 DK、 FIN、 FR、 HU、 IT、 NO、 PL、 UK
r-HVT+CVI988
(1日齢)
レイヤー、種鶏、フリーレンジ飼育のブロイラー BE、BG、 CY、FR、IT、 NL、UK、ES、HU
HVT/CVI988
(1日齢)
脚部
HVT/CVI988
(1日齢)
頸部
レイヤー、種鶏 CH、 DE、PL、 FR※
HVT/CVI988
(1日齢)
脚部
CVI988
(1日齢)
頸部
レイヤー、種鶏 DE、FR※
HVT/CVI988
(1日齢)
脚部
r-HVT+CVI988
(1日齢)
頸部
r-HVT+CVI988
(3~7日齢)
脚部
レイヤー、種鶏 PL※
HVT/CVI988
(1日齢)
HVT
(10~14日齢)
レイヤー、種鶏 UK
r-HVT
(1日齢)
CVI998
(7日齢)
レイヤー、種鶏 IT
r-HVT+CVI998
(卵内 18日齢)
r-HVT+CVI988
(1日齢)
レイヤー、種鶏 UK
r-HVT
(卵内 18日齢)
CVI988
(1日齢)
レイヤー、種鶏 IT

AT:オーストリア、BE: ベルギー、BG:ブルガリア、CY: キプロス、CH:スイス、DE:ドイツ、
DK:デンマーク、ES:スペイン、FIN:フィンランド、FR:フランス、HU:ハンガリー、IT:イタリア、
IRE:アイルランド、NL:オランダ、NO:ノルウェー、PL:ポーランド、S:スウェーデン、UK:イギリス

※感染圧の強い場合

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3) ワクチンを再接種していますか?

ヨーロッパではマレック病ワクチンの接種スケジュールが標準化されていません。Gimeno等 (2012年) の再接種の定義によれば、ある鶏に同じ日に2回のワクチン接種を2箇所の違う場所(例えば脚部と頸部)にした場合に再接種となります。集約的養鶏を営む数か国(デンマーク(DE)、イギリス(UK)、オランダ(PL))では、このような1日齢時の再接種が採卵鶏、レイヤー種鶏、ブロイラー種鶏で一般的に行われています。イギリス(UK)とイタリア(IT)では卵内マレック病ワクチン接種(18日齢胚)と引き続き1日齢時に筋肉接種を行います。しかしながら、最近ほとんどのヨーロッパの国々では採卵鶏と種鶏には再接種を必要としない傾向があります。これらの国々では2価HVT/CVT988もしくはr-HVT+CVI988を用いた標準的な1日齢時接種を行っています(表1参照)。ドイツの獣医師によれば、CVI988の1日齢時接種および8~9日齢時の再接種により、50%かそれ以上の減耗を引き起こすマレック病の発生を抑えることに成功したとされています。新たな育成期間を繰り返す毎に死亡率が標準的な数値となるまで減耗率は継続的に減少します。

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4) 2回接種がより高い効果を示す根拠はありますか?

すべての獣医師が再接種は有効性を高めると考えています。なぜならば、ワクチン投与ミスが減少するためです(雛への初回接種でミスするとワクチン接種用量が足りません)。

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結論

マレック病はヨーロッパではよく管理できています。大部分のブロイラーはマレック病ワクチンを投与されていません。大きく育成するために40日齢以上飼育するブロイラーのみがHVTワクチンのみ接種されます。ワクチン接種手順は国によって異なりますが、ヨーロッパ全体ではいくつか共通点が見られます。CVI988は採卵鶏、種鶏、生育の遅いフリーレンジ飼育のブロイラーに対するワクチンプログラムに不可欠とされています。この一般的なワクチン株の使用は、1日齢でのワクチンスケジュールにCVI988が含まれていることが最も有効であるとしたGimeno等(2012年)による研究結果を支持しています。2価HVT/CVI988もしくはr-HVT/CVI998はヨーロッパで好まれているマレック病ワクチンです。

 

再接種は広く行われていますが、野外感染圧が高いときのみです。再接種により、より良い防御効果が得られるメカニズムに関するヨーロッパの獣医師の一般的な理解は、初回接種時に接種ミスがあった場合の補償です。しかしながらドイツの獣医師によれば、CVI988の1日齢時接種および8~9日齢時の再接種により、50%かそれ以上の減耗を引き起こすマレック病の発生を抑えることに成功したとされています。

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【参考文献】
Gimeno, I.M., A.L. Cortes, R.L. Witter, A.R. Pandiri (2012) Optimization of the protocols for double vaccination against Marek`s disease using commercially available vaccines: evaluation of protection, vaccine replication, and activation of T cells. Avian Disease, 56:295-305.

【監修】
栃木ラボラトリ所長 美馬 一行

【訳】
社長室 五十嵐 ゆり


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